『惰性クラブ』の備忘録兼感想です。
事前に情報として耳にしていたとおり、観る人やタイミングによって感じ方が異なる作品だなと思いました。
概要だけ聞いた時、「これは自分にとってはしんどい作品になるかもしれないな……」と思っていて、田舎特有の閉塞感や、生まれた時から東京(都会)にいる人との可能性の格差は、やはり見ていて苦しくなる部分もありました。
でも、この作品は決してそれだけではなく、大切な場所や思い出を懐かしんだり、失敗からもう一度踏み出すきっかけを描いていたりと、直哉たちに自分を重ねながら、お芝居はもちろん照明や音楽まで味わい尽くせた作品でした。
私は何でも言葉や行動に意味を探してしまうタイプなので、考えすぎだったり見当違いな解釈もあるかもしれませんが、自分なりに感じたことを備忘録として残しておこうと思います。
ちなみに、これまで防振双眼鏡はライブの時だけレンタルしていましたが、今回ついに自前のものを購入しました。
舞台で使うのは今回が初めてだったものの、表情の変化はもちろん、瞳の潤みまで見えるほど鮮明で、作品に対する解像度が一気に上がりました。
演技の細かなニュアンスまで受け取ることができて、「舞台で防振双眼鏡を使うとこんなにも見える景色が変わるんだ」と感動しました。
①惰性クラブの日常
真っ暗な倉庫で、エアコンもつけず電気ストーブの前で「さっむ」と言いながら暖を取る直哉。
そこへ突如現れるゴキブリ(慌てる直哉がかわいい)。
その後、和希と順平も合流し、退治しようとするものの失敗。
ゴキ退治について「やみくもに動いてもダメ」と熱弁する姿は、過去に挫折を経験した直哉をどこか重ねているようにも感じた。(もちろん直哉本人が意識して話しているというより、脚本としてそう見せているのかなという印象。)
一旦ゴキ退治は保留となり、和希がエアコンをつけようとするものの、リモコンが見つからないと話す直哉。
ただ実際には、リモコンは直哉のすぐ後ろに置かれていた。
ここは、まだ視野を広く持てていない直哉を描いているのかなと思った。少し周りを見渡せば見つかるもの(=状況を変えるきっかけ)がすぐ近くにあるのに、それに気づけていない現在の直哉を表現しているようにも見えた。
1年があっという間だったと話しながら、何も成し遂げていないことに表情を曇らせる順平。
「生きた」とやけくそ気味に返す和希。
順平を明るく励まし、大晦日もここに集まろうと提案する直哉。
現状と向き合わなければならないと思っている順平と、心のどこかではそう感じながらも考えることから目を背けているように見える直哉と和希。
この時点で3人とも今の自分に満足していないことが伝わってくるからこそ、後の梨奈の言葉がより胸に刺さった。
ゴキブリに怯えて抱き合う男3人組をよそに、あっさり踏みつぶす梨奈。
この時の3人の驚いた表情が本当にかわいい(笑)。
さらに「1匹いたら100匹いる」と梨奈が言うと、思わず全員が足を上げる姿もかわいかった。
それでも直哉は「よし!我慢しよう!」とその場に留まろうとする。
ゴキブリのことだけではなく、「現状を変えずにやり過ごそう」とする直哉の姿勢も重ねて描いているように感じた。
不審な男がまちに現れており、それが直哉たちではないかと菅原に疑われていることを梨奈が伝える。
「いつか本気を出す時がくるはず」と話す和希に、「いつかっていつ?」と厳しい言葉を投げかける梨奈。
梨奈は、この物語の中でも特に"本質"を問い続ける存在として描かれているように感じた。
後のストーリーで明かされるように、彼女は両親の離婚をきっかけに宮崎へ転校し、母親のために地元を離れないと決めている。理由は母親の存在ではあるものの、自分なりの生き方の軸を持っている点は直哉たちとは対照的だった。
だからこそ、梨奈は直哉たちに「このままではいけない」と一番強く伝えたかった人物なのではないかと思う。
その後も、不審者が熊ではないかと冗談を言ったり、「取材されるぞ」とふざけたりする3人に対して真剣に怒る姿からも、その思いが感じ取れた。
②雄太の帰省
そこに現れるのは、かつて惰性クラブのメンバーだった雄太と、恋人の汐音。
スタイリッシュな服装に身を包み、「東京で成功している人」を演じる雄太(実際はそうではない)の登場に困惑する直哉たち。
直哉は特に、自分は東京で挫折した一方で、雄太は成功しているように見えたことに、少なからず負い目を感じていたのではないだろうか。
本当は惰性クラブの仲間に会いたくて帰ってきたはずなのに、お互い素直になりきれず、気まずさを抱えたまま和希と衝突してしまう。
和希は本当に感情がそのまま行動に出るタイプでわかりやすい。でも、順平や直哉が感情を飲み込むタイプだからこそ、この素直さもまた物語の大切な役割を担っているように感じた。
一方で汐音は、惰性クラブに来たばかりで全員と初対面にもかかわらず、臆することなくその空間へ入っていく。
私には、その姿が長年大切にしてきた場所へ踏み込まれてしまうようにも映った。
惰性クラブに足を踏み入れた時の「すごーい」という軽いリアクションからも、どこかそんな印象を受けた。
(パンフレットでも、雄太はそんな汐音との距離感に戸惑いを感じていることが語られていた。)
「東京は疲れない?」という直哉の問いに、「生まれが東京だから感じない」と答える汐音。
汐音に見下す意図はまったくないことはわかっている。それでも、その何気ない一言が、私には東京で育ったことの"当たり前"を語っているように聞こえた。
その瞬間、思わず直哉と自分を重ねてしまった。
正直に言うと、私は少し苦手なタイプだと感じた。
もちろん、それは汐音自身が悪いということではない。
自分にはない環境や価値観を自然に持っている人だからこそ、どこか距離を感じてしまったのだと思う。
だから、この場面は東京で育った人が観たら、またまったく違う受け取り方になるのではないかとも感じた。
東京は、地方で育った自分にとっては羨望の場所だった。生まれ育った環境は、自分の力だけでは変えられない。だからこそ、直哉が抱えていた劣等感や息苦しさにも強く共感してしまった。
気を遣いながら何とか雄太と言葉を交わしていた直哉も、次第に口数が減っていく。
梨奈から「なんで黙っているの」と指摘されると、その場に居づらくなったのか、倉庫を飛び出していってしまう。
②菅原の登場
不審者の件で順平たちのもとを訪れる菅原。
出演者情報を見て観劇したにもかかわらず、菅原役がとろサーモン・村田さんだということをすっかり忘れていて、「この俳優さん、ものすごく演技がうまい」と素直に驚いた。普段お笑いを見る機会があまりないこともあって、その存在感に引き込まれた。
不審者の特徴が「ゆったりした服装」だったことから、和希や順平を疑う菅原。
このコミカルなやり取りは毎回本当に面白く、大阪公演ではさらにアドリブにも磨きがかかっていた(イオンのフードコートの紙コップの話には思わず笑ってしまった)。
「お前らそれぞれがダボっとしてるもんなぁ!」という一言は、服装だけでなく、惰性のまま過ごしている彼ら自身にも向けられた痛烈な皮肉のように感じた。直前まで笑っていた空気が、この一言で一気に張り詰める演出が印象的だった。
菅原は惰性クラブを解散することを提案する。言葉こそ厳しいが、外から見た彼らの印象や、この町で暮らし続けるうえでの生きづらさを案じているからこその発言だったのだと思う。
暴走族のように騒音を立てているわけでもなく、倉庫の中で悪いことをしているわけでもない。それでも、若者がいつも集まっているというだけで目立ってしまう。そして、その情報があっという間に地域へ広まり、いつの間にか尾ひれが付いてしまう――そんな田舎特有の空気もリアルに描かれていた。
大人の中では直哉たちに最も近い立場だからこそ、菅原自身も似たような経験をしてきたのかもしれない。だからこそ、彼らがこの町で生きていくための道筋を示そうとしていたように感じた。
もちろん、そんな菅原の真意を和希が知る由もない。「自分たちのことは自分たちで決める」と反発するのも、ごく自然な反応だったのだと思う。
そこへ、何事もなかったかのように明るく戻ってくる直哉。その直後に暗転し、物語は過去の回想へと入っていく。この切り替えも印象的だった。
④過去回想
■高校1年生:サッカーを諦めることを父に伝える
卒業アルバムには「2013」と書かれていたので、そこから考えると現在の直哉は20代後半くらいなのだろうか。
それまでの「大人になった直哉」と、高校生として父と向き合う直哉はまるで別人で、そのギャップに驚かされた。
特に大阪公演では、そのギャップがさらに際立って感じられた。自分の受け取り方の変化なのか、それともお芝居自体が少しずつ深まっていったのかは分からないけれど。
「だからレベルが違うと言ったじゃないか」という父に返した「うん」の一言も印象的だった。ぶっきらぼうでも、大人ぶった返事でもなく、どこか幼さの残る言い方で、高校生らしさが自然に伝わってきた。
ドアの外から「おい、ヘタレ~!」という声が飛んでくる。この一言だけで、実力差だけではなく、当時の人間関係も決して良いものではなかったことが伝わってくる。だからこそ、後に惰性クラブが直哉にとって「安心できる居場所」になっていく流れにも説得力があった。
この後の父との場面も含め、もう少し父と話したいという気持ちが、ほんのわずかな仕草や間から伝わってくる。その繊細なお芝居がとても好きだった。
■高校1年生:梨奈・順平とサッカー観戦
梨奈と順平がおそろいのヘアピンを付けているのがかわいらしかった。
実力不足でサッカーを止めたことは話しておらず(完治しない怪我と話している)、倉庫を寄り場として集まることを楽しんでいる様子。
一方で、直哉が何気なく口にした「どうせ家、誰もいないんだろ?」という一言からは、順平も家庭環境に何かしらの事情を抱えていることがうかがえた。
だからこそ、3人でこの場所に集まる時間が心地よかったのだろう。惰性クラブは、そんな居場所から始まったのではないかと感じた。
■高校2年生:サッカーを止めた本当の理由がバレる
「サッカーのことはもういいから」と話す梨奈の姿からは、彼女は(順平もかもしれないが)以前から真実に気付いていて、それでも直哉自身が話せる日まで、あえて見守っていたのではないかと感じた。
いつまでも気付かないふりはできない。その時が来ただけだったのだと思う。
「これからどうするの?」と聞く梨奈に「まだ2年あるのに?」と驚く直哉。
梨奈が県外へ進学してしまうのではないかと、不安そうな表情を浮かべる直哉。
自分だけが立ち止まったままで、仲間だけが前へ進んでいく。その寂しさや焦りが、表情から強く伝わってきた。
■高校2年生:雄太との出会い
■高校3年生:和希との出会い
「これぞ青春」と感じさせる、この場面の音楽と照明がとても好きだった。
照明について詳しいわけではないが、ほかの場面よりも明るい白い光が印象的だったように感じる。差し込む日差しを思わせるような照明が、学生時代のまぶしく輝く時間をまっすぐに伝えてくれていた。
この場面は直哉の視点で描かれているが、雄太にも和希にも、それぞれここへたどり着くまでの人生や事情があったのだと思うと、「仲間っていいな」と改めて感じた。
ただ、場所も顔ぶれも変わっていないはずなのに、今のみんなはあの頃のようには楽しそうに見えない。その変化が、かえって胸に刺さった。
■高校3年生:母親の逝去
「男2人になってしまったな」と話す父。
「大丈夫?」という直哉の言葉にも返事を返すことができなかった父。
子どもの頃は「大人なんだから」と思ってしまうけれど、大人になった今だからこそ、子どもが思っているほど大人は大人ではないのだと感じる。当時の父には直哉の気持ちを受け止める余裕がなかったのだろう。
それでも、勇気を振り絞ってかけた「大丈夫?」に応えてもらえなかったことは、直哉にとって少なからず心の傷として残ったのだと思う。
■高校3年生:惰性クラブ誕生
将来の話をするメンバーをよそに、直哉はいつものように「なにする〜」と気だるそうにソファへ身を預ける。
「ここが快適」と話す直哉。この倉庫は、挫折した自分を受け入れてくれた場所であり、大切な仲間と出会えた場所でもある。そんな時間を積み重ねるほど、この場所は直哉にとって何より居心地のいい居場所になっていったのだと思う。
そうして、この場所は「惰性クラブ」と呼ばれるようになる。
高校卒業を前に、菅原が地元へ戻りラーメン店を開業することを知る。
順平が「すごい!すごい!」と目を輝かせている姿がとてもかわいい。本編ではどこか曇った表情が多かった順平が心から笑っていてほっとしたし、菅原の行動力をまっすぐ称賛する姿からは、「何かを成し遂げたい」という気持ち自体はずっと強く持っていたのだろうと感じた。
一方の直哉は、「どうせ失敗する可能性があるなら、最初からやらない方がいい」と否定的な言葉を口にする。一度大きな挫折を経験したからこそ、新しいことに挑戦するのが怖くなってしまったのだろう。
言葉は順平や菅原へ向けられていたけれど、本当は誰よりも自分自身に言い聞かせていたように感じた。
そして卒業。ここで流れる音楽は、自分には『仰げば尊し』をモチーフにアレンジしたように聴こえたのだけれど、合っているのだろうか。シルエットの中でひらひらと舞うものも桜の花びらに見えて、学生時代の終わりを象徴しているように感じた。
学生時代という大きな時間が終わる寂しさと、自分自身の学生時代を重ねた懐かしさ。
そして、順平が舞台上であえて少し乱暴に梨奈とのお揃いのヘアクリップを外す仕草からは、「何者かにならなければならない」という葛藤まで感じられて、この場面は毎回胸がいっぱいになった。
■19歳:高校卒業後の惰性クラブ
みんなの服装がいかにも大学生らしくて(特に雄太)、見た目だけでも少し大人になったことが伝わってくる。梨奈は高校生の頃から垢抜けていてかわいい。
一方で現在の梨奈は、おしゃれを楽しむ余裕よりも日々を過ごすことを優先しているように見えて、この頃はまだ将来への焦りや不安をそこまで抱えていなかったのかなと感じた。
それにしても、この頃の直哉がとにかく優しい。「26巻?」と後ろからそっと声をかけたり、髪についたゴミを自然に取ってあげたり、飲み物を勧められて「大丈夫」と穏やかに返したり…。何気ない仕草の一つひとつが本当に自然で、思わず見入ってしまった。
明らかにいい雰囲気の2人に挟まれて、雄太は気まずくないのかな…と余計な心配をしていたら、突然「俺、就職する!」と宣言して勢いよく飛び出していく。
驚いて追いかける直哉。そこへ父が現れ、静かに作業着を手渡す。
■20歳~:父の仕事を手伝う→東京へ飛び出す→挫折し惰性クラブへ戻る
父の仕事を手伝うようになるものの、どこか作業に身が入っていないように見える。
道具を置く所作も東京公演より少し乱暴に見えた。高校1年生のシーンも含め、大阪公演では父の前でより子どもらしさが際立っているように感じた。
衝動的に「東京に行きたい」と切り出す直哉。しかし父は、その言葉を最後まで受け止めようとはしない。
サッカーを辞めた時や母を亡くした時には、「父と向き合いたいのに向き合えない」というもどかしさが感じられた。
一方、この場面では、その気持ちが少しずつ諦めへと変わってしまっているようにも見えた。後に語られる「遮られたと思った」という言葉にもつながっているように感じる。
誰にも告げず地元を飛び出し、東京で映像関係の仕事に就く直哉。
しかし仕事に身が入らず、「みんな本気なんだぞ。舐めんなよ」と厳しく叱責される。
「わからないんです……」と漏らす直哉。
その背後に映し出される「自分がなぜここにいるのか」という言葉が胸に刺さった。
自分も生まれ育った土地を離れて就職し(当時は勤務地を選べるような状況ではなかった)、数年間働いた。仕事そのものは順調だったけれど、生活が変わっていく中で、「今、自分がここにいる意味は何なのか」と考え続けた時期があったことを思い出した。その後Uターンし、その選択を後悔したことはない。でも、キャリアを重ねた今だからこそ、改めて考えることもある。「東京」に行けばすべてが解決するわけではない。結局は、自分がどこで生き、何をしたいのかという問いからは逃げられない。場所ではなく、自分自身と向き合うことでしか答えは見つからないのだと思う。
惰性クラブへ戻った直哉は、今自分が立っている場所を確かめるようにゆっくりと扉を閉め、一歩ずつ中へ進み、ソファへ身を預ける。
そして苦しそうに「あぁ……あ……」とだけ漏らし、回想シーンは幕を閉じる。
また失敗してしまった自分への落胆。ここへ戻ってきたことへの安堵。そして、その安堵を覚えてしまうことへの後ろめたさ。
きっと一つの感情では表せない、さまざまな思いが「あぁ……あ……」というわずかな声に込められていたのだと思う。
個人的には、この作品の中でも特に心を掴まれた場面の一つだった。
⑤町内会長・仲村との対峙
順平が姿を消し、「東京に行くんじゃないか」と焦る直哉。
過去に梨奈が県外へ行ってしまうかもしれないと不安になった時と同じように、周囲が変わっていくことへの恐れが伝わってくる。
この場所は仲間と安心して過ごせる居場所である一方、「自分だけが取り残されるかもしれない」という不安を生み出す場所にもなってしまっていたのだと思う。
そんな直哉の気持ちを梨奈が諭すと、直哉は思わず「じゃあなんで梨奈はここに来るのか。俺らが頼んだ?」と言い返してしまう。こういう時、いつも間に入ってくれていた順平はもういない。
「確かに…なんで私ここにいるんだろう…」と自問する梨奈。
冒頭では一歩引いた立場から3人を見つめ、変わることを促しているように見えた梨奈も、実は彼女自身、この場所とのつながりを手放せずにいたことが伝わってくる場面だった。
そこへ父、町内会長、仲村、菅原がやって来る。菅原のどこか気まずそうな表情や、直哉と目が合った時に見せる何とも言えない顔からは、彼自身も直哉たちと町内会長の間で板挟みになっていることが伝わってきた。
明らかに挙動不審で怪しさ満点の仲村に同調し、直哉たちを不審人物だと決めつける町内会長。今にも泣き出しそうな表情で怒りをあらわにする和希。一方の直哉は、反論する気力すら失ったかのように、その場へ座り込んでしまう。
「今日は警告に来ただけ」「ここで暮らしていくためのチャンスをあなたたちに与えてるの」と言い放つ町内会長。その言葉からは、「この町で暮らしていくなら従うしかない」と言われているような息苦しさを感じた。町を守りたいという気持ちは伝わってくる一方で、相手を理解しようとするよりも押さえつけるような印象が強く、私には田舎特有の閉塞感を象徴しているようにも映った。このやり方では、若い世代はますます町から離れてしまうのではないか、とも感じた。(もちろん、この出来事を経て町内会長自身が変わるのであれば話は別だが。)
その言葉を聞き、立ち上がって感情を爆発させる和希を制する直哉。静かに直哉が「だったら…」と町内会長へ向き合うが、その先の言葉を発する前に菅原が止めに入る。
ここで直哉が何を言おうとしたのかは明言されていないが、私は「こんな町、出て行ってやるよ」と続けようとしたのではないかと感じた。
菅原からも「(直哉たちは)監視しますから」と告げられ、ショックを受けながらも「監視って何ですか?」「こっちを見て言ってくださいよ」と必死に訴える直哉。
菅原自身も、このやり方が正しいとは思っていない。それでも、この町でこれからも生きていく立場として、そう言わざるを得なかった葛藤がにじんでいるように見えた。
菅原に投げ飛ばされた和希は、その勢いのまま倉庫を飛び出していく。
和希が飛び出していったあと、「また一人消えた…」と静かに口を開いた仲村の態度が一変する。不審者情報は仲村のでっち上げで、その理由は楽しそうに過ごす直哉たちへの羨望と嫉妬だったことが明らかになる。
登場した時から怪しさを感じさせる存在ではあったけれど、その狂気がどこかリアルに感じられて怖かった。一方で、仲村の感情の根底にある孤独も理解できる部分があった。自分自身、直哉たちのように卒業後も毎日のようにつるむ仲間がいたわけではないからこそ、母親を亡くし一人になった仲村が、直哉たちの関係性を羨ましく思う気持ちが、次第に疎ましさへ変わってしまう過程は理解できてしまった。ただ、それでも刃物を持ち歩くという行動に至ることとは別の話ではあるけれど。
「誰かといるのは楽しいやろう」と話す仲村に対し、直哉は震えながらも確かな怒りを込めた声で「楽しいだけじゃないですよ…」「ふざけるな」と言葉を振り絞る。この場面で、これまで自分の本心をあまり語らなかった直哉が、初めて自分の中に抱えていたものをさらけ出したように感じた。
人は誰かの見えている部分だけを見て、その人のすべてを判断してしまいがちだと思う。SNSが発達した今は、なおさら他者の良い部分と自分を比較してしまうことも多い。
この作品で描かれている「外から見える幸せ」と「本人が抱えている苦しさ」の違いは、現代にも通じるものがあるように感じた。
これまで直哉たちの前で明確にどちらかの味方をすることがなかった父が、仲村に対して「彼らに謝らんか!!」と激昂する。
この場面で、父は決して直哉たちを疑っていたわけではなく、言葉にはしないながらも彼らのことを信じていたのではないかと感じた。
直哉に「大人は無力だ」と語っていたように、父自身もどう関わるべきか悩んでいたのかもしれない。それでも、彼らが傷つけられることに対しては黙っていられなかったのだと思う。
この後、仲村は謝罪の言葉を残すことなく、嗚咽しながら倉庫を後にする。
7/3公演では、和希が勢いよく飛び出した際に扉に関するハプニングがあったが、その後の対応が本当に見事だった。演者さんとスタッフさんが自然に連携し、作品の流れを止めることなく進めていく姿に、改めて舞台は生ものなのだと感じた。何十公演と続く中でも、一公演一公演に集中して向き合う演者さんやスタッフさんのプロフェッショナルさを実感した瞬間だった。
⑥父・梨奈との対話
仲村が姿を消した後も、呆然とその場に残る直哉と梨奈。一方で、大人たちは荒らされた場所を片付け、仲村が持っていたものを処理しようと動いていた。
ここでも、感情を抱えながら立ち尽くす若者たちと、現実的にその後始末を担おうとする大人たちとの違いが印象に残った。
その後、町内会長が直哉にかけた「嫌いにならないでね。生まれた場所だから。」という言葉。
故郷への思いを語る言葉である一方で、私には彼女自身の不安や葛藤もにじんでいるように感じられた。パンフレットで語られていた彼女自身の背景も踏まえると、直哉たちに自身の経験や思いを重ねていた部分もあったのかもしれない。
ただ、「生まれた場所だから大切にするべき」という価値観が当然のものとして押し出されることには、個人的に複雑な思いもあった。自分自身、故郷に戻る選択をした側ではあるけれど、それはあくまで自分で選んだことであり、誰にとっても同じ形が正解ではないと思っている。
その後、直哉の父に向けた「役に立ってくださいね」という言葉からは、町を守るという責任感がある一方で、直哉たちを「守るべき一人ひとり」として見るよりも、まちを維持するための存在として見てしまっているようにも感じられた。
もちろん、彼女自身も町内会長という立場の中で、地域を守るために背負ってきたものや葛藤があったのだと思う。それでも、この出来事をきっかけに彼女がどのように変化していくのか、またこのまちがどう変わっていくのかが気になった。
仲村のもとへ向かおうとする町内会長に続き、菅原もその場を離れようとする中で、直哉たちに向けて「すまん」「申し訳ない」と謝罪の言葉を口にする。
その言葉に驚いたように顔を上げる直哉の表情が印象的だった。
これまで直哉たちに対して厳しい言葉をかけることもあった菅原が、自分の言動について謝る姿からは、彼自身もまた葛藤を抱えていたことが感じられた。
和希を捜しに行くため菅原が倉庫を後にした後、直哉が梨奈のもとへ向かおうとする。しかし、梨奈も外へ出ることを選び、直哉は父と2人きりになる。
お互いに何を話せばいいのかわからないような空気の中、父から「使っていないコンセント、全部抜くぞ」という言葉が出てくる。
その言葉は、父なりの不器用な気遣いや照れ隠しのようにも感じられた。
1人でコンセントを抜き始めた父に対し、直哉は静かにゆっくり「すみませんでした…」と頭を下げる。自分たちが犯人ではなかったことがわかったとしても、疑われるような状況を作ってしまったことへの思いは残っていたのだと思う。普段、アイドル川島如恵留として見せている姿からは想像できないほど小さく丸まった背中が、直哉の抱えてきた寂しさや葛藤を表しているように感じた。
「どうしたいか考えろ」と伝える父。すぐには答えを出せず、自分でコンセントを抜き始める直哉に、父は「大丈夫」と声をかける。その言葉を受けた直哉が、これまで胸の奥にしまっていた「もっと父さんと話したかった」という気持ちを吐露する。
サッカーを止める時も、母を亡くした時も、東京へ行きたいと話した時も、直哉はきっと父に伝えたいことがあったのだと思う。でも、その時々で父は直哉の気持ちを十分に受け止めることができなかった。その積み重ねが、東京へ行きたいと話した時の「遮られたと思った」という言葉につながったのではないかと感じた。
でも、父も決して直哉を大切に思っていなかったわけではないと思う。むしろ、直哉を一人の人間として尊重していたからこそ、これからどうするのかという部分に目を向けていたのかもしれない。サッカーを止める時も東京へ行きたいと話した時も、父は直哉の未来を考えて言葉をかけていたのだと思う。一方で、直哉がその瞬間に抱えていた不安や葛藤に寄り添うこととは少し違っていたのかもしれない。直哉はきっと、答えや助言ではなく、父に自分の気持ちを聞いてほしかったのだと思う。
「すまん」と話す父に、「もういいけど」と優しく答える直哉。その表情には、これまで胸の内に抱えていた思いをようやく言葉にできた安心感がにじんでいるように感じた。
梨奈を呼んでくるよう父に促され、立ち上がって背を向けた瞬間に涙を拭う仕草も印象的だった。
梨奈に「入っておいで」と伝える直哉。
姿は見えないものの、入ることをためらっているであろう梨奈に、優しい声で「おいで。大丈夫。」と伝える姿が印象的だった。
父が倉庫を出る時に「ありがとう」と伝える声色からも、父との関係の中で直哉自身が少し前へ進めたことが感じられた。
梨奈と2人になり、梨奈は中学生の頃、仲間に入った時のことを思い出したことを話し始める。先ほど直哉がかけた「おいで。大丈夫。」という言葉が、転入したばかりで1人だった梨奈に声をかけた当時の直哉の姿と重なったのかもしれない。
「ここに来るのは直哉たちがいるから。だけど、それが歯がゆくもある。」と梨奈は自分の素直な気持ちを語る。その言葉を受け、直哉も「失敗するところを見せたくなかった」と、これまで隠していた思いを打ち明ける。
特に梨奈に対しては、1人だった彼女を受け入れた過去があるからこそ、自分を頼りにしてくれていることを感じていたのではないかと思う。だからこそ、これ以上弱い姿を見せたくなかったのかもしれない。
「知ってた」と話す梨奈。2人を包む空気が、19歳の頃を思い出させるような雰囲気に変わっていく。
初見では、19歳の時点で直哉と梨奈は付き合っていたのではと思った。
ただ、直哉が何も告げずに東京へ行ったことや、冒頭の倉庫での2人の距離感を見ると、現在はそういった関係ではなく、互いに思いを抱えたままの状態なのかもしれないと感じた。
19歳の頃と重なるような空気感になった2人が、これからどのような関係になっていくのかも気になるところだった。
⑦再び惰性クラブメンバーの集合
2人が穏やかな時間を過ごしているところへ、再び雄太と汐音が訪れる。「ダメだった?」という雄太の言葉に対し、直哉は「ダメなんてことない。大丈夫」と返す。
そこへ和希が抜き足差し足で戻ってくる。この時、雄太と直哉が笑い合っている姿がとてもかわいらしく、思わず頬が緩んだ。
菅原と和希が抱き合っていたことを雄太に暴露される和希。あれだけ激しくぶつかり合っていた2人だけれど、なんだかんだで和希が菅原を一番慕っているようにも感じられるし、菅原も和希のことを気にかけているように見えた(服をプレゼントするほどの関係性も含めて)。
和希の「そっちは大丈夫だったか?」に「ああ」と返し、無事に事件が解決したことに、直哉と和希はそれぞれ互いを強く抱きしめる。
そんな2人を茶化す雄太に対し、和希は照れ隠しをするように「いつ東京に帰るのか」と尋ねる。
汐音から、自分は先に東京へ戻るものの、雄太はもう少しここに残ることが伝えられる。
パンフレットでは、汐音は雄太との結婚も考えている一方で、なかなか決断できない雄太に対し、地元で過ごす時間を持つことを勧めていたことが語られている。彼女自身も、これからの2人の関係を考えるための選択だったのかもしれない。
それを踏まえると、「帰るためにもう少し留まる」「大丈夫」と汐音に伝える雄太の言葉には、彼なりの決意が込められているように感じた。
ここで、これまで明るく飄々としていた汐音が初めて表情を崩す姿が見られたように思う。いつも周囲を明るくする存在である彼女にも、迷いや不安を抱える瞬間があるのだと感じ、少し安心した。
その後、不審な音とともに大きく崩れる荷物たち。
ここで荷物が崩れること自体は、直哉のこれからの決断を直接左右するものではなかったように思う。それでも、なぜこのタイミングでこの演出が入るのか考えていて、積み上げられた荷物は、これまで直哉たちが過ごしてきた長い年月や、積み重ねてきた思い出を象徴しているのではないかと感じた。
そして、それが崩れたことで、直哉たちがこれまで積み重ねてきたものと向き合い、次の一歩を踏み出そうとしている状況を表しているようにも思えた。
菅原のラーメンが実はおいしくないという話で盛り上がる一行。反発する和希が菅原のことを「様」付けで呼んでいる姿からも、すっかり慕っている様子が伝わってきて微笑ましかった(笑)。
その中で、和希の口から、菅原が仲村に必要なものは「あたたかいもの」だと考え、ラーメンを食べさせようとしていたことが明かされる。
それを聞いた直哉は、「それなら…」と何かを言いかけるようにして、下を向いて黙り込む。恐らく「大丈夫」と続けようとしたのではないかと思った。でも、「大丈夫」と口にすることはなかった。これまでの直哉なら、自分の弱さを隠すように「大丈夫」と口にしていたのではないかと思う。これまでは苦しい時ほど周囲を安心させるように振る舞い、自分の気持ちを後回しにしてきたように見えた直哉。しかしこの瞬間は、無理に「大丈夫」と口にする必要がなくなったのではないかと感じた。そんな直哉に、梨奈が「怖かったねぇ」と声をかける。
静寂の中、突然、「なにする5!」と口火を切る雄太。それに続き、メンバーが「なにする4!」「なにする3!」と声を重ね、最後に「なにする1」となった汐音。何をするのか考えるように言われ、悩む汐音に対して、和希が「時間はたっぷりある」と声をかける。
その言葉自体は汐音に向けられたものだけれど、直哉に向かってそう語りかける姿からは、これからの直哉、そしてもしかすると自分自身にも向けた言葉のように感じられた。
「何もしない。だってここは惰性クラブだから。」と案を出す汐音に、「採用です」と笑顔で応える直哉(『採用です』の言い方がとてもかわいかった)。
その後、「でもこれが最後。もうええやろ。」と仲間に伝え、メンバーが驚いた表情を見せる中、それぞれがなにもしない時間を過ごす。
これまでのことを思い出しているのか、直哉の瞳には徐々に涙が溜まり、思わず天井を見つめる。
「なにする2」になった直哉が何を提案したのか、それは明確な言葉では語られていない。台詞がない中で、直哉が観客に背を向けて発言する動きを見せた直後、メンバーの表情が変化することで、「惰性クラブを解散する」という決断を伝えたことが読み取れる演出がとても印象的だった。
あの場面は、時間の流れがよりゆっくりになったように感じた。そんな中で、唯一梨奈だけが直哉の言葉を聞いた後、静かに笑みを浮かべている。ずっと変わってほしいと思っていた梨奈だからこそ、直哉が自分の意思で一歩踏み出そうとしている姿を嬉しく思っていたのではないかと感じた。
⑧順平の帰宅
夜が明けて戻ってきた順平。一度身体を休ませ、再び倉庫に集合することを直哉から聞き、困惑した表情を見せる。
菅原から厳しい言葉を受けた後、順平自身も1日考え続け、このままではいけないという思いを改めて強くしたことが伝わってきた。
直哉から倉庫を片付けると聞き、驚いた表情を見せた後、泣きそうになる順平。その表情から、きっと直哉と同じようなことを考えていたのではないかと思った。
それでも、倉庫を後にする時にはしっかりと前を見つめて歩き出していた姿が印象的だった。
⑨ラスト
1人になった後、直哉は倉庫の中にある一つひとつのものに、ゆっくりと向き合うように見つめていく。足元にあるサッカーボールを手に取り、愛おしそうに見つめる。
大千穐楽では、ボールをリフトアップする場面で思わぬ形でボールが観客側へ転がるハプニングがあった(落下はなし)。どうするのかと見守っていると、ボールを止めた後、そのまましばらく項垂れ、再びゆっくりとボールを手に取る。そして、卒業アルバムが置かれている机にボールを置いた後、いつもなら手に取っている卒業アルバムをそのまま机の上で開くという対応を見せた。
その素振りには一切焦りがなく、役者としての対応力の高さに圧倒された。
最後に、崩れたダンボールをかき分け、シャッターを開け、外に向かって「あーーーーーー!!!」と叫ぶ姿で幕を閉じる。
これから先、また失敗することもあるかもしれない。それでも、外の世界に出ることを決断したこと、そして失敗した時に「大丈夫」と声をかけてくれる仲間がいることは、直哉がこれから進んでいく上で大きな力になるだろう。
なかなか心の内を見せなかった直哉が、不安や感謝、思いやりなど、さまざまな感情を以前より素直に表せるようになった。直哉やメンバーの心情に共感しながら、彼らが変わっていく姿を見届けることで、「自分も」と勇気をもらえる物語だった。
そして、恐らくこの作品のキーポイントの1つにもなっている「大丈夫」という言葉。
作中でどれほど登場しているのか改めて整理してみると、自分が確認できただけでもこれだけの場面があった。
〇サッカーを辞める時、直哉が強がるように父へ向けた「大丈夫」
〇母が亡くなった時、父へ向けた「大丈夫?」
〇事件解決後、父から直哉へ向けられた「大丈夫」
〇梨奈を呼び戻す時の「おいで。大丈夫。」
〇「失敗するところを見せたくなかった」と話す直哉に、梨奈が返した「大丈夫なのに」
〇雄太の「ダメだった?」に対する直哉の「大丈夫。ダメなんてない。」
〇和希の「そっちは大丈夫だったか?」という気遣いの言葉
〇雄太から汐音へ向けた「(戻ってくるから)大丈夫」という言葉
サッカーを辞める時や母が亡くなった時の「大丈夫」は、直哉から発せられる一方通行の言葉であり、そこに応えてくれる人はいなかった。
そんな中で、父や梨奈から「大丈夫」と声をかけてもらえたこと、自分を受け止めてくれる人がいると知ったことは、直哉にとって大きな力になったのではないかと思う。
そして、気持ちに余裕が生まれた直哉は、「大丈夫」を受け取るだけではなく、梨奈や雄太など、他者を受け止めるための「大丈夫」を伝えられるようになった。
「大丈夫」という一つの言葉を通して直哉の変化が描かれていることに気づいた時、演劇ならではの表現の奥深さを感じ、とても面白いと感じた。
演技が終了し、姿を現した如恵留さんは、もう直哉ではなく川島如恵留になっていた。
初見では、いつもの如恵留さんの姿を見ることができて、すごく安心したことを覚えている。それだけ、2時間の間、直哉を直哉として見守っていたのだと思う。
美しいお辞儀をし、観客一人ひとりをゆっくりと見渡しながら笑顔を浮かべる如恵留さんからは、この場所に立てていることへの幸せが伝わってくるようで、感無量だった。
カーテンコール後に送ってくれた言葉も印象的で、如恵留さん自身の言葉を聞くことで、さらに作品への理解が深まったり、新たな力をもらえたりした。
自分が観劇した回のメモ。
・「守りたいものを守る強さと力強さを持ってください」
・「みなさんの大切な場所を思い出してもらえたら嬉しいです」
・「素直な気持ちを伝えてみてください」
・「閉め切ったトビラがあったら開けてみてください」
・「止まっていた時を動かすのは自分と大切な人なのかもしれません」
・「1人では開けられないトビラを一緒に開けてあげられる人になりましょう」
・「誰かの背中を押せる、『大丈夫』と声をかけてあげられるような、そんな優しい温かい気持ちを持って帰っていただけたら」(大千穐楽)
名残惜しさを感じながらも、早くも次の舞台が控えているという、ありがたい幸せを噛み締めている(無事当選)。
今度は如恵留さんのどのようなお芝居を見ることができるのか、楽しみです!













